公的年金減額の影響を試算
厚生労働省が、1月21日(金)に令和4年度の年金額の改定を発表しました。
現在の年金制度は現役世代の賃金と物価の変動を基に改定内容が決められますが、今回は0.4%の減額となります。金額ベースでは、厚生年金のモデル世帯(夫婦二人の標準的な年金額) で月額903円、国民年金1人あたり月額259円となります。
減ることが残念だと思うのは皆さん同じだと思いますが、月額のこの数字だけで感じる影響の程度は人それぞれで大したことはないと感じる方もいらっしゃると思います。ただ、この数字をライフプラン全体で考えると、意外と軽視出来ないのではと思う数字が出てきました。
また、このブログでは今回の改定で表面上の金額には反映されない『未調整分』も記載しています。詳細は後述していますが、目先で直接影響を受ける金額だけでなくいずれ影響を受ける分も含めて、本来の金額を知る一助になれば幸いです。
この改定の影響はずっと続きますので、いま年金を受け取っている方はもちろん、何年先かに関係なくこれから年金を受け取る現役世代も当然影響を受けます。むしろ、年金を受け取るのが先であるほど改定の影響を複利で受けていくことになります。これからも改定の議論は行われどのようになるか毎年異なりますが、一度まとめておくとライフプランのお話をする時に使える資料にもなると思いましたので今回ブログにまとめてみました。
『100年安心の年金制度』と言われていますが、これは『公的年金の制度を守る』という意味であって『現在のセカンドライフの生活水準を100年間守る』と言う意味ではありません。少子高齢化やサラリーマンの平均年収が30年間増えていないと言われている現状を踏まえた上で年金制度が維持されるために受ける影響を知ることで、少しでも早くライフプランを考えられれば対応も余裕を持ちやすくなると思います。
尚、小数点以下の数字も含めて計算していますが、端数処理により1円単位の計算では誤差が出ている場合がございますのでご了承ください。
影響を受ける年金額の試算
厚生労働省が発表した年金額改定のお知らせに記載されている厚生年金のモデル世帯(夫婦二人の標準的な年金額)及び国民年金(1人)の月額の変化額と年金額を基に、国民年金で夫婦2人の場合や年金額の年額も計算して以下の表にまとめました。
厚生年金のモデル世帯は、『平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9 万円)で 40 年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額))の給付水準です。』と記載されています。43.9×12=526.8万円となり、40年間就業した平均年収が526.8万円の場合に受け取れる年金額、と言うことです。
表1 令和4年度の改定額及び年金額の試算
月額 | 年額 | |||
変化額 | 年金額 | 変化額 | 年金額 | |
モデル世帯 | -903円 | 219,593円 | -10,836円 | 2,635,116円 |
国民年金(1人) | -259円 | 64,816円 | -3,108円 | 777,792円 |
国民年金(2人) | -518円 | 129,632円 | -6,216円 | 1,555,584円 |
月20万円強の年金を受け取っているモデル世帯で年間約1万円強の減額、と言う数字が出ています。国民年金だとご夫婦二人ともの場合、年金は二人で月13万円くらいの受取に対して年間6,216円の減額になります。
平均余命で試算
影響は受けるけど年間で1万円くらいなら、と思われるかも知れません。ただ、セカンドライフを過ごす時間となる平均余命で考えてみるとどうでしょうか。
公的年金を満額受け取ることが出来る65歳の平均余命は、男性20.5年・女性24.91年です(厚生労働省の令和2年簡易生命表より)。この平均余命の期間で、今回だけの改定で受ける影響を試算すると以下のようになります。国民年金も厚生年金も、概ね夫婦二人で受け取る1ヶ月分くらいの年金が減額される数字が出てきました。
尚、厚生年金のモデル世帯の金額は、概算として今回のモデル世帯と国民年金(2人分)の年金の月額変化の比率を当てはめて計算います。
国民年金
男性 | 女性 | 合計 |
-62,315円 | -77,420円 | -139,736円 |
厚生年金
-243,593円(モデル世帯)
未調整分の反映
『未調整分』と言う言葉を初めて見る方もいらっしゃるかも知れませんが、これは、簡単に言うと「将来減らす年金のツケ」です。
毎回減らす割合には下限がありますが、本来減らすべき割合が下限を超えた場合、一部を将来に繰り越すことになっています。本来ならここまで減らすべき状況だけど一気に減らすと生活への影響も大きいので一部減らす時期を後ろにずらす分、と言うイメージです。
その分が、今回0.3%となりました。つまり、未調整分が無ければ令和4年度に減額される年金額は本来0.7%でしたが、今回減らす分は0.4%に留めて残りの0.3%は後で減らす分に回した、と言うことです。
この未調整分を表1の金額に追加で反映すると、以下の試算になります。
表2 未調整分の変化額を反映
月額 | 年額 | |||
変化額 | 年金額 | 変化額 | 年金額 | |
モデル世帯 | -659円 | 218,934円 | -7,905円 | 2,627,211円 |
国民年金(1人) | -194円 | 64,622円 | -2,333円 | 775,459円 |
国民年金(2人) | -389円 | 129,243円 | -4,667円 | 1,550,917円 |
平均余命の試算
この未調整分を、平均余命で国民年金・厚生年金に反映させると以下のようになります。
国民年金
男性 | 女性 | 合計 |
-46,784円 | -58,124円 | -104,909円 |
厚生年金
-177,712円(モデル世帯)
今回実際に減額される分に未調整分も加えると、概算で夫婦二人で約2カ月分の年金が減額される計算になります。公的年金は偶数月毎に2カ月分を受け取りますので、実質的に1回分はもらえなくなったことと同じ、と言う考え方になります。
減額分を埋めるには運用資金を5,000万円追加!?
今回は令和4年度の改定のみ記載していますが、この改定は毎年行われます。実際に受け取れる年金の試算は『年金定期便』を見ると分かりますが、日本の現状と今後の見通しを踏まえると、物価と年金のギャップは広がっていくと思いますのでライフプランを考える上で大事な話題になると思います。
この減額に対して実際どのように対応するかはお客様毎に異なります。
- 受け取る年金に合わせて使うお金を減らす(生活水準を下げる)
- 持っているものを売って資金を作る
- 運用でカバーする
- 使うお金を変えずに年金の減額分貯金を追加で減らす(上記の『平均余命の試算』が目安)
リスクを取らずにカバーしたいと考えている方は多いと思いますので、ここでは一つの例として、3を選択しさらに日本の円だけで何とかしようとするといくら必要か、と言うことを逆算してみようと思います。
運用は、原資・方法(取れるリスク、手段や期間)・求めるリターンに優先順位をつけて決めていくことになります。
現在、日本では『個人向け国債』と言う商品があります(リスクの詳細等は財務省のホームページをご参照ください)。日本の国が元利金の支払いの責任を負っていますが銀行預金とは異なり国が金利の最低保証を行っており、0.05%です。
表1で、モデル世帯の場合減額される年金は年額で10,836円です。個人向け国債と言う方法で、0.05%の金利で毎年手取り11,000円弱(税引き前なら約13,600円)を受け取る(リターン)ために必要な元本(原資)は・・・、
約2,700万円
です(税引き後では約10,757円)。
つまり、今回の年金の減額分を個人向け国債の利息で補いたい場合、いま持っている資産とは別で2,700万円の元本を個人向け国債で運用すればカバーできる、と言うことです。尚、元金が減ると利息も当然減りますので、この2,700万円は使わないことが前提にもなります。
そして、ここには未調整分は含まれていませんので、未調整分0.3%もカバーするには、さらに約2,000万円分の元本を追加する計算になります。
上記のサブタイトルの5,000万円は、2,700万+2,000万=4,700万の百万円の単位を切り上げた数字です。
計算上はそうなりますが、じゃあその元本はどこから出てくるのか、と言う話にもなり実際の対応はここで書いたまま実践、とはならないと思います。
そうなると、優先順位を変えることになります。
- 上記のケースは、利息は欲しいけど一般的に言うリスクは取りたくない場合に必要な元本を準備
- 原資が100万円で税引き前13,600円のリターンを期待するなら毎年平均1.36%の収益を狙う方法を検討
- 原資が100万円で預貯金以外はしたくなければ利息は数十円~数百円程度であることを受け入れる
- 年金の減額や運用を気にしなくて良いくらい、100歳を超えても十二分に残る資産を準備しキャッシュフロー表で確認
ただし、これは令和4年度の改定分のみの対応です。令和5年度以降もさらに改定は続きますので、引き続き改定で減額されるならそれにどう対応するかの選択も毎年続きます。
お客様毎に出来る様々な対応をサポートします
今回は令和4年度の改定についてのみ記載していますが年金は来年度以降も改定は続きますので、 改定で引き続き減額されるならそれにどう対応するかの選択も毎年続きます 。他の事も含めて変化する環境に対してどのように対応するかはお客様毎に異なると思います。現役世代の方なら、仕事を継続する、と言うことも一つの選択肢になるかも知れません。
厳しい環境は続くかも知れませんが、当事務所ではライフプランやマネープランのサポートを通じて、変化する環境の中でもお客様の希望するマネープランを一つでも多く実現出来るよう、精一杯サポート致します。年金額は減るけど生活水準は守りたい!などのご要望がございましたらお気軽にお問い合わせください。
投稿者プロフィール
最新の投稿
- マネー情報2024年11月17日はばたんpay+第4弾が実施されます
- お知らせ2024年11月10日ストアカの講座を設定しました
- お知らせ2024年11月10日個別相談料の割引キャンペーン
- マネー情報2024年10月21日姫路市・兵庫県のプレミアム付き商品券の現状